第三者承継
後継者不在の老舗店と創業者による事業承継
鴨川のほとりで300年以上続く和漢薬の専門店を営む平井正一郎さん。廃業を考えている時に、客として出会った古川和香子さんの実直な人柄と漢方に対する情熱に触れ、事業譲渡することを決意した。経営者は変わっても、培われてきた思いはしっかりと引き継がれている。
会社概要 | 売り手 | 買い手(創業者) |
---|---|---|
会社名 | 平井常榮堂薬房 | 平井常榮堂薬局 |
代表者 | 平井 正一郎 | 古川 和香子 |
住 所 | -- | 京都市左京区高野西開町21-5 |
事業内容 | 薬草・健康食品の小売 | 漢方薬・医薬品の小売 |
創 業 | 1701年 | 2021年事業譲渡完了 |
経営者の思いに共感し
創業の夢と重ね合わせて事業を引き継ぐ
旧店舗内にて
70歳を過ぎた頃から、仕事をリタイアした後の人生設計を考えるようになったという平井さん。300年以上続く和漢薬専門店の暖簾を守ってきた老舗の8代目だが、オンライン販売の普及やドラッグストアの進出などで個人経営の薬局を取り巻く環境が厳しくなる中、子どもたちに店を継がせる意思はなく、「形あるものはいつかなくなる。これも時代の流れだ」と、廃業を考えていたという。
ちょうどその時、客として店を訪れたのが古川さんだった。薬剤師として診療所で働く傍ら、国際中医師の資格認定を得るなど、以前から漢方や生薬が持つ可能性に魅力を感じていたという。歴史ある店のたたずまいに惹かれて何度も足を運ぶうちに後継者が不在であることを知り、「大学生のころから抱いていた、自分で漢方薬局を開きたいという夢が沸き上がってきた」と振り返る。
平井さんも、古川さんの実直な人柄と熱意に触れ、この人なら店を任せられると直感した。商材や道具、お客様だけでなく、店の名前や暖簾、信用、そして平井さんの思いを引き継いでもらうことで、「9代目に店を譲れた」と笑顔を見せる。
持続的な経営と成長に向け
事業計画の作成や資金調達をサポート
看板を引き継いで開店
2021年5月、薬剤師の古川さんが一人で京都府事業承継・引継ぎ支援センターの窓口を訪ねたところ、事業譲渡のため平井さんとともに相談するようアドバイスを受け、それ以後、一緒になって話を進めることになった。古川さんにとっては今回の引継ぎが新規事業の立ち上げに当たることから、当センターに事業の譲り受けに必要な手続きや手順のアドバイスのほか、事業計画のブラッシュアップや金融機関との橋渡しによる資金調達の支援を受けた。「事業を継続していくための総合的な支援をしてもらい、経営者としての自覚を持つことができた」と古川さんは話す。
11月1日に事業譲渡が完了。高野の地で心機一転、新たな平井常榮堂がオープンした。これまでの登録販売事業者ではなく、薬剤師が常駐する薬局として取り扱う医薬品の種類が増え、生薬の調剤等も自由に行えるようになった。お客様の体調や症状を聞きながら対面販売できるスペースを設けるなど、一人ひとりに寄り添ったオーダーメイドのサービスが好評を得ている。
場所が変わってもわざわざ訪れてくれる常連客も多く、「若い世代の感性に期待したい。多くの人に漢方の魅力を伝えてほしい」と、店を見守る平井さんの眼差しは優しい。
意欲あふれる後継者を得て、和漢薬の老舗は新しい時代に確かな一歩を刻もうとしている。