第三者承継
後継者不足の課題に応える事業承継モデルの取組み
30年以上にわたって、地域の人たちの健康を見守り続けてきた、さぎの森薬局の松嶋京子さん。今回、加盟する
京都小売薬業協同組合への引き継ぎという新しい事業承継スタイルで、薬局経営を次世代へとバトンタッチする
ことに成功した。新たに迎えた若い管理薬剤師のもとで、店は「リ・スタート」を切ろうとしている。
会社概要 | 買い手 | 売り手 |
---|---|---|
会社名 | 京都小売薬業協同組合 | さぎの森薬局 |
理事長 | 米田 宗一 | |
代表者 | 松嶋 京子 | |
住 所 | 京都市 左京区 修学院薬師堂町12-7 さぎの森薬局2階 |
京都市 左京区 修学院薬師堂町12-7 |
事業内容 | 調剤用医薬品等の共同購入及び 情報の提供等 さぎの森薬局」運営 | 調剤医薬品、一般用医薬品等の販売 |
創 業 | 1985年 | 1987年 |
組合員数 | 32社 | |
従業員数 | 5人(内パート4人) | |
売上高 | 5000万円 | |
URL | - | - |
※事業譲渡前の情報です
協同組合が譲渡先となって
加盟店の事業を引き継ぐ新たなスキーム
松嶋京子さん
修学院の閑静な住宅地に店を構えて30年、処方箋の調剤サービスはもちろん、様々な市販薬や健康・美容ケア商品を提供するなど、今では地域の人たちにとってなくてはならない存在となっている。
松嶋さんが次世代へのバトンタッチを考えたのは65歳のときだった。「自分が愛情を注いで育てた店を畳みたくなかった」。子どもたちは後を継ぐ意思がなかったため、「京都府事業引継ぎ支援センター」に相談を持ちかけマッチングに向けた支援が始まったが、大手ドラッグストアの進出など個人経営の薬局を取り巻く環境は厳しく、なかなか思うような後継者と巡り会えなかったという。
京都小売薬業協同組合 米田理事長
そんな状況を見据え、本センターでは「さぎの森薬局が加盟する京都小売薬業協同組合が経営に関与できないか?」という提案を組合に行った。思いもよらない提案に理事長の米田さんは驚いたというが、早くからVAN(多様な通信網)を使った商品の共同受発注システム等を取り入れ、加盟店の経営力強化を進めてきた経験から、「事業承継・店舗存続の新しいモデルになると考えた」と振り返る。事業を譲渡する松嶋さん自身も、組合で理事を務めるなど取り組みに理解が深かったことも後押しとなった。
若い人材の知恵とやる気を薬局経営に生かす仕組みづくり
増田聖也さん
2018年度の定時総会で提案が承認され、新たに雇い入れる管理薬剤師にさぎの森薬局の運営を委
ねることで、組合が経営に関与していく事業承継のスキームを構築。松嶋さんの好意で、組合事務
局も薬局の2階に移転を済ませた。
「定款変更は必要だったが、加盟店の多くが期待感を持って受け入れてくれた」と米田理事長。
管理薬剤師の採用にはさらに1年半の時間を費やしたが、意欲にあふれ、大手ドラッグストアでの
経験もある31歳の若者を迎えることができた。以前から、独立への強い思いを持っていたという増
田聖也さん。「30年間培われてきた店ののれん、お客様、組合のバックアップは魅力的だった」と
募集に応じた理由を明かす。「ガッツがある青年」と松嶋さんの評価も高い。
2020年3月には事業譲渡の手続きが完了し、組合直営による新生さぎの森薬局がスタートした。
現在は、米田理事長や松嶋さんがサポート役として接客に当たりながら、増田さんの奮闘を優し
く守っている。古くからの馴染み客だけでなく、処方元の病院、医師などからの評判も上々だとい
う。
「京都府事業引継ぎ支援センターが、組合の先進的な取り組みを理解してくれたからこそ実現できた、新しい事業承継のかたち」と米田理事長。
後継者不足の課題を抱える他の組合・団体などでものスキームの転用が期待できることから、「まずは私たちが成功モデルの第一号を目指したい」と意気込みを見せる。世代の違いを超えて、明るくオープンな店内に今日も地域の人たちの笑い声がこだまする。