第三者承継
小規模事業の付加価値を事業譲渡で次代へ伝える
父親から継いだスクリーン印刷会社の事業譲渡を決断した板谷秀之さん。引継ぎに時間がかかることを考慮した早めの取り組みで、内装・サインの製作を手掛けるサンスクの亀本良孝社長と出会った。これまで培ってきたニッチな技術、設備、お客様を引継ぐことで、付加価値の高い新たなビジネスが生まれようとしている。
会社概要 | 売り手 | 買い手 |
---|---|---|
会社名 | 有限会社板谷プロセス | 株式会社サンスク |
代表者 | 板谷 英之(60歳) | 亀本 良孝(67歳) |
住所 | 京都市西京区山田久田町3番地7 | 京都市南区吉祥院堤外町8番地 |
事業内容 | シルクスクリーン印刷 | 屋内外サイン製作・施工 |
創業 | 1961年 | 2005年 |
資本金 | 300万円 | 1,000万円 |
従業員数 | 3人(内アルバイト3人) | 12人(内パート2人) |
売上高 | 1千万円 | 1億4千万円 |
URL | - | http://www.sunsc.co.jp/ |
※会社概要は取材時点(2019年11月21日)のものを掲載
準備時間がかかることを想定し
早めの相談で引継ぎ支援をスタート
スクリーン印刷を得意とする板谷プロセスは、お客様の要望に応じて一つひとつ色を合わせるなど独自の技術を生かし、寺院向けマッチ箱を中心に短納期・低コストでのラベル印刷を引き受けてきた。
特色インキの調合
創業者の父親が亡くなった後、43歳で二代目を継いだ板谷さん。まだ事業承継や廃業を考えるには早いと思われる年齢だったが、息子に会社を継ぐ意思はなく、事業内容がニッチで引継ぎにはある程度の準備時間がかかると覚悟していたことから、気軽な気持ちで最寄りの相談窓口である「京都府事業引継ぎ支援センター」に相談を持ちかけた。マッチラベルのスクリーン印刷を手がける会社はほとんどなく、「引継いだ後も、今までどおりお客様を大切にしてくれることが条件だった」と板谷さん。会社の名前がなくなることに問題はなかったという。2019年1月に取引先の材料店から、内装・サインの製作を手掛けるサンスクがスクリーン印刷に関心があるという情報を得たことから、本センターの支援で両社のマッチングに向けた取り組みが始まった。
スクリーン印刷機
板谷さんの父親と候補先の社長であるサンスクの亀本さんは旧知の仲だったというが、二代目の板谷さんは相手の会社のことはほとんど知らなかった。専門相談員が双方に足を運んで会社情報の提供や譲渡希望額の調整などをサポートし、亀本さんの仕事に対する情熱や真摯な人柄を知るうち、「この会社が引継いでくれれば、お客様に迷惑をかけることはない」と思ったという。サンスクがちょうど現在の新工場に移ったばかりのタイミングであり、大きな印刷用設備を移設する手間やコストを負担してくれたことも、小規模事業者である板谷さんにとって事業譲渡の大きな後押し材料となった。
ニッチな事業に魅力!
スクリーン技術を飛躍のチャンスに
サイン用大型インクジェット出力機(3台)
もともとスクリーン印刷が出発点だったというサンスク。価格競争が激しさを増し、新たな柱となる付加価値の高い事業を模索する中で、同じスクリーン印刷技術を持つ板谷プロセスとの出会いは、これからの成長・発展戦略を考える上でチャンスに映ったという。今まで培われてきた技術、設備、人材はもちろん、板谷プロセスが受注していた印刷単価や納期、品質などを引継ぐことで、従来のお客様の安心と信頼を得ることにもつながった。
本センターの支援を受けることにより、「最初は一対一で対応すればいいと思っていたが、必要に応じて客観的なアドバイスをもらって交渉がスムーズに進んだ」と亀本さんは振り返る。
事業承継で生き続ける
技術、人材、お客様の信頼
2019年8月、事業譲渡の手続きが完了。板谷さんは定期的にサンスクを訪れ、スクリーン印刷の指導や既存のお客様の対応などを行っている。「板谷プロセスという会社はなくなったが、これまで培ってきた技術は新しい会社で生き続けていく」と力強く語る。事業譲渡により、次の目標に向かって良いスタートを切ることができた。
亀本さんは、従来の内装・サインの技術とスクリーン印刷の技術を組み合わせることによって、他社では真似できないような独自の商品・サービスを開発しようと考えている。長男への事業承継を視野に、「若い人たちが意欲を持って取り組めるような魅力的な事業を育てていきたい」と意気込みを示す。
板谷さんと亀本さん、事業引継ぎでつかんだ二人の夢は大きく膨らもうとしている。