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[我が社のチャレンジ004] 歴史や意味を熟知し、新しい座布団を提案/有限会社プラッツ 取締役 加藤就一さん


■寝具訪問販売からの脱却

プラッツ 明治以降大量の綿花が輸入されるようになり、綿の寝装寝具が広く普及し始めた明治20年頃、弊社は寝装寝具の製造小売業として西陣の地で創業しました。昭和35年頃には、現在の嵐山に移転し、寝装寝具製造に本格的に開始しました。しかし、昭和40年代に入ると、多くの寝具店は製造を辞めて小売に特化。寝具製造は一部の大手メーカーに集約されていきました。以後、寝具は画一的な商品が大勢を占め、価格競争に陥っていくことになります。弊社でも、多い時期には全体の8割以上を仕入れていましたが、座布団等の打ち直しの注目が継続的にあり、かろうじて製造機能が残っていたような状態だったようです。
日本の伝統的住居では寝食は一体で、寝室という概念がなく、日中、布団は押入に仕舞い、夜間にだけ出して使うため、当時、布団のデザインへの配慮はなかったようです。また、熾烈な価格競争のなか、多くの寝具店は訪問販売に傾倒していき、寝具店は布団をみせる場所ではなく、むしろ倉庫でした。
数年間の建設会社勤務を経て、私が家業を継いだのは1990年です。訪問販売に抵抗があった私は、店頭に布団を美しくディスプレイすることで、お客様に来店してもらいたいと考え、欧米の百貨店に習い、生活シーンを演出する売場づくりを行いました。布団をみせるためにベッドを置き、テーブル、ランプ、ティーカップなどの雑貨を飾って生活空間を演出しました。また、集客のために、メディアに注目し、雑誌社やインテリアスタイリストに積極的にアプローチしました。すると、布団だけでなく雑貨も評判が高く、次第に雑貨も扱うようになりました。

 

■衰退分野にダイアモンドが埋まっている

プラッツ 日本の伝統工芸は安土桃山時代に完成された感があり、手を加えることには自他共に抵抗感があります。しかし、衰退分野であれば、比較的気軽に加工することができます。
最も衰退が著しい寝装寝具を調べたところ、座布団に行き着きました。婚礼需要が激減したことなどが原因です。その後、座布団に関する情報を集めるため、図書館や資料館、日本国中の座布団産地や関係者を訪ねました。しかし、多くの産地は崩壊寸前で、座布団に関する知識を持っている人もいません。そこで、座布団は競争のない分野であり、基礎から技術やノウハウを蓄積していけば、先駆者になれると考えました。廃れつつある業界に、ダイアモンドが埋まっていることもあるのです。
弊社も商品の大半を仕入れていた時期がありますが、それでも天龍寺などの寺院、京都市内の有名旅館や料亭の座布団を作り納め・修理していました。作り続けてきたからこそ、技術が残ったのです。古来の意味合いや作り方、使い方といった文化的背景や製造プロセスを理解しながら、うまく現代の生活に生かしていくという発想で商品をつくってきました。代表的商品のひとつが、「小座布団」です。多くの日本の住宅ではソファーが置かれていますが、実際はソファーに座らず、床に腰を下ろして、ソファーを背もたれ代わりにされる人が多いようです。そのときの背あてクッションにもなり、普段はソファーの飾りになるのが、小座布団です。


■ものづくりを熟知し、新商品を創造する

プラッツ 例えば、小座布団のサイズは42cm×45cmで、一辺がわずかに長い長方形なのですが、その形には畳の目とのデザイン相性や、足やすねへの負担軽減、また「死」を連想させる真四(し)角を避けるなど、いろいろな意味があります。綿の詰め方にしても、座布団の構造に対する理解あって初めて適切にできるもので、それは長い試行錯誤を通じて得られる絶妙なノウハウです。つまり、文化的背景や製造プロセス、使い勝手を熟知しているからこそ、新しいものを創造でき、お客様の支持が得られたのだと思います。
この他にも、うたたね布団、足まくらなど、オリジナルティのある商品を数多くつくっています。すぐに試作品をつくれるのも弊社の強みの一つです。原型がしっかりあれば、枝葉を出すのはそう難しくありません。

 


■顧客層のさらなる拡大

現在では百貨店や通販など、自社店舗以外での売上は全体の約6割にまで増えました。
後継職人の確保、他社とのコラボレーションなど課題は山積みですが、今後、特に外国人観光客への販売を重要視しています。商圏は京都、近畿圏、そして全国へと広がり、今では海外のお客様も来店し、購入してくださるようになりました。国は違っても、何が快適であるかは、さほど大きく違いません。京都に来て、京都の雰囲気のなかで、弊社商品の心地よさを伝えてゆく能力を養っていきたい。商いをしながら、ものをつくる「商職」という姿勢に立ち、当社がまだ気づいていないお客様へと商圏を拡大していきたいと考えています。

 


<企業情報>

有限会社プラッツ 代表取締役 加藤 晴夫 氏 
〒612-8384 京都市右京区嵯峨天龍寺造路町5
TEL 075-861-1721 URL http://www.jin.ne.jp/platz/
事業内容:寝具・インテリア商品の製造・卸・販売
従業員14人、 資本金1000万円

 
[我が社のチャレンジ004] 有限会社プラッツ 取締役 加藤就一さん

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